※この記事は委任している弁護士事務所に確認の上、執筆しております。
※この記事における「誹謗中傷」とは個人の主観によるものであり、司法が「誹謗中傷である」と認めることとイコールではありません。
最近よく耳にするワード「発信者情報開示請求」ですが、検索してみると弁護士が解説している記事が多くヒットします。しかしながら、弁護士は手続きの内容を把握しているだけに、依頼人が知りたいのに省かれている情報もあると感じました。そのため、今回私がこの「発信者情報開示請求」を行うにあたって気づいたことや対策等を依頼人視点でまとめ、少しでもSNS上の誹謗中傷で苦しんでいる方の泣き寝入りを防ぎ、そもそも誹謗中傷が起こりにくい土壌を作る(=抑止力となる)ことに貢献したいと思いました。
もちろん、法曹の世界にいる人間ではないので専門的な知識はありませんが、依頼人としてやっておいた方が良いことや、裁判の流れ等をケースの一例として参考程度にお伝えできたらと思っております。最後までお読みいただいた上で、誹謗中傷で悩んでいる方へ届くよう、もしよろしければ記事の拡散にご協力いただけますと幸いです。
- 事件に先立つトラブル
- 事前対策と準備
- 誹謗中傷の証拠保存・経緯の準備
- SNS本社または支社がある都道府県の弁護士事務所へ相談
- 発信者情報開示仮処分命令申立事件
- 発信者情報開示請求事件
- 弁護士会照会
- 示談折衝
- 損害賠償請求訴訟
- 発信者情報開示請求を行った感想
- YGエンターテインメント及びタイアップ企業、そして傍観者へ
- 裁判結果
事件に先立つトラブル
下記記事に詳細にまとめております。
上記記事を簡潔に箇条書きにすると、下記の通りです。
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K-POPアイドルグループTREASUREのメンバーであるハルトは、生配信で差別発言を行った(同性愛嫌悪的な発言であった)
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YGエンターテインメントはその差別発言を説明もなく削除した(黙殺した)
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私は差別発言によって自殺を図るほどの抑うつ状態となった
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TREASUREのファンダムTREASURE MAKER(以下:トゥメ)は、ハルトの発言を擁護するために私に誹謗中傷を繰り返し行った(牽制するも、聞き入れなかった)
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YG JAPANは私個人に「差別的な表現があった」と謝罪を行い、その文面に「誠心誠意取り組んで参ります」とあったが、その後本件に関する取り組みは一切見られなかった
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YGエンターテインメントは差別発言に対して「公な対応」を何もしていない(何事もなかったようにTREASUREはカムバックをし、日本ツアーを行い、さまざまな企業とタイアップしている)
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私は差別発言及びトゥメの誹謗中傷がトラウマと化し、下血や言語障害等の心身症状が出るようになった(現在も言語障害は治っておらず、TREASUREに関するすべてが目や耳に入るたびに動悸や一時的な呼吸困難に見舞われています)
上記のトラブルを理由に、私は「発信者情報開示請求」を行いました。開示請求を行った相手はトゥメですが、それ以上の情報は個人情報保護の観点から公開できかねます。
事前対策と準備
まず、そもそも誹謗中傷をされなければいい話です。しかし、悲しいことに誹謗中傷されてしまうケースもあると思います。実際に開示請求を行う・行わないはともかく、迅速に対応ができるように下記のことを試しておくと良いです。「発信者情報開示請求」は初動の早さが肝心になります。
SNSを本名で運営する
これが一番です。ですが、一般人であれば本名とハンドルネームを分けている人の方が多いかと思います。しかし、たとえハンドルネームであっても、開示請求はできます。実際、私ができました。まず第一にお伝えしたいのは、ハンドルネームだからといって諦めないで欲しいということです。
プロフィール画像は自画像にする
SNSにおいて何かを発信する際、プロフィール画像を好きな芸能人に設定していたらその芸能人の迷惑になる可能性もあることや、肖像権の問題もあるため、私は最初から自画像をプロフィール画像にしています。自画像は、有利に働きます。
自画像ではなくても、ご自身の名義で何かを発表している際は、それらを発表している媒体で使用している画像をSNSのプロフィール画像と統一しておくと良いです。
自分が関与しているものはプロフィールのリンクにまとめておく
例えば私の場合は音楽ライターとして記事を書いたり、自分で曲を作って音楽活動を行ったり、アーティストのMVに出演したりしているのですが、それらのリンクをひとつにまとめ、プロフィールに貼っておくと良いです。プロフカードやlinktree等さまざまなサービスがあると思いますが、ひとつにまとまっていれば何でも良いです。
不快だと思うことは先に宣言しておく
X(Twitter)であれば「私は引用投稿は不快であるというスタンスです」「私が描いた絵の転載を固く禁じます」等、先に嫌なことは嫌であると「私は」を主語にして宣言しておきましょう。プロフィールのbio欄だとなお良いです。
非公開アカウントを作っておく
これは誹謗中傷の事前対策というより、誹謗中傷されることを見越した対策となりますが、フォロー・フォロワー0人の非公開アカウントを作っておきましょう。例えば、誹謗中傷をしたあと即座に本アカをブロックする人もいると思います。それを見逃さないためにも作成しておきましょう。
X(Twitter)であれば非公開リスト(念には念を)を作成し、そこに誹謗中傷アカウントを追加しておきましょう。もしくは、非公開アカウントから誹謗中傷アカウントをブロックしておきましょう。そうすることで、相手のIDが変わっても追跡が可能です。
クラウドアカウントを作っておく(OneDrive・Dropbox等)
こちらも誹謗中傷を見越した対策となりますが、弁護士と相談する際や証拠を保存する際に、クラウドアカウントは必須です。ほとんどのクラウドアカウントは1GB程度であれば無料で利用できるので、作成しておきましょう。
法テラスに登録しておく
弁護士費用は、決して安いものではありません。そのため、預金残高が不安な方は先に法テラスに登録しておきましょう。弁護士費用を立て替えてくれたり、金額が安く済んだりします。しかし、法テラスを利用して訴えを起こすまでに審査等で2~3週間掛かるため、誹謗中傷が起きてからでは遅いです。事前に登録を考えておきましょう。
上記対策を行うと、誹謗中傷された際、閲覧者は「この人はこのような顔をしていて、○○という名前で△△というサービスで活動をしている」と紐付けが可能となり、誹謗中傷の内容が例えば「この人は□□に対して性的なことを言う変態だ」だった場合、「このような顔をしていて、○○という名前で△△というサービスで活動をしているこの人は、□□に対して性的なことを言う変態だ」と具体的な情報を知ることになります。
上記の対策を何もしていない場合、まず訴えを起こす手続きがスムースに進まず、デッドライン(※誹謗中傷の投稿から3ヶ月)を超えてしまう可能性があります。また、閲覧者が得られる情報も「○○という名前の人は、□□に対して性的なことを言う変態だ」で終わってしまい、「自分以外の○○という名前の人を指している」可能性がないことは証明が難しいため、訴えを起こすのが難しくなるおそれがあります。しかしながら、前後の投稿等から総合的に判断するケースもあるため、諦めずに証拠を保存しましょう。
次項では、証拠の保存方法についてお伝えします。
誹謗中傷の証拠保存・経緯の準備
いざ誹謗中傷されてしまった場合、ショックを受け動揺することは当然ですが、もうひとり、真顔で証拠を保存して経緯をまとめる自分も用意しておきましょう。
証拠保存は可能な限りPDF印刷
証拠を保存する際は、できればPCから行いたいところです。誹謗中傷がなされた時刻及びURLがわかるように、PDF印刷を行います。ブラウザから該当の投稿を開き、Ctrl + Pもしくは右クリック+印刷で印刷画面を開き、プリンターを「PDFに(として)保存」にします。Google Chromeの場合は「背景のグラフィック」にチェックを入れると、画像も一緒に印刷できます。するとPDFとして保存され、それを開くと「いつ」「どのURLで」「誰が」誹謗中傷されたかがわかります。
スクリーンショットじゃダメなの?
スクリーンショットの場合でも、「いつ」「どのURLで」「誰が」誹謗中傷されたかがわかれば、何も問題はありません。しかし、PCで印刷したPDFの場合、リンクをクリックするとブラウザが起動し、該当のリンクが開かれます。そのため、弁護士相談の際に時短が見込まれます。弁護士の相談は初回30分無料など、時間が有限です。
スマホからじゃダメなの?
私はiPhone使いのためAndroidはわかりかねますが、iPhoneでもPDF印刷は可能です。ただし、リンクをタップしてもブラウザが起動し、該当のリンクが開かれることはありません。そのため、スマホしか持っていない場合はスクリーンショットが早いでしょう。スクリーンショットだけではURLが確認できないため、リンクをコピーしてメモに残しておき、スクリーンショットとセットにしておく等の対応を取りましょう。
ファイル名例①
・yyyymmdd(日付)_○○(アカウント名)_投稿01.png(スクリーンショット)
・yyyymmdd(日付)_○○(アカウント名)_投稿01_URL.txt(URLを記載したメモ)
・yyyymmdd(日付)_○○(アカウント名)_投稿02.png(スクリーンショット)
・yyyymmdd(日付)_○○(アカウント名)_投稿02_URL.txt(URLを記載したメモ)
ファイル名例②
・yyyymmdd(日付)_○○(アカウント名)_誹謗中傷01.png(スクリーンショット)
・yyyymmdd(日付)_○○(アカウント名)_誹謗中傷02.png(スクリーンショット)
・誹謗中傷URL.txt(URLを記載したメモ)
「誹謗中傷URL.txt」の中身
・yyyymmdd(日付)_○○(アカウント名)_誹謗中傷01.png
・yyyymmdd(日付)_○○(アカウント名)_誹謗中傷02.png
これらのPDFやスクリーンショットとメモをクラウド上のフォルダ内に保存し、事の経緯をメモ等で時系列順に書き記して、同じフォルダに保存しておきましょう。私の場合、誹謗中傷のPDFは250件以上に及び、経緯については上記ブログ記事のURLをメモ帳に貼り付けて保存しておきました。
SNS本社または支社がある都道府県の弁護士事務所へ相談
まず、弁護士に相談します。家族や友人に相談してもなぐさめは得られますが、問題の解決には繋がりません。最初にSNS本社または日本支社がどの都道府県かを調べ、調べたら「○○(都道府県名) 発信者情報開示請求 弁護士」と検索します。すると弁護士事務所をまとめたサイトがヒットするので、そこに記載されている弁護士事務所に片っ端から相談をします。例えば地理的に遠い場所に住んでいるのであれば、「全国対応可」「Web相談可」のところに片っ端からメールを送ってください。前工程で作成したフォルダのURLを送付し、発信者情報開示請求を行いたい旨を伝えましょう。法テラスを利用したい方は、法テラス利用可の弁護士事務所に片っ端から以下略。基本的にはメールで返信が来ます。電話がかかってくることもあります。
ここで留意して欲しいのは、すべての弁護士事務所が受任してくれるわけではないということです。就活と同じくらい祈られる覚悟をしておきましょう。誹謗中傷を受けた側がそういう気持ちを味わわないといけないというのは非常に理不尽ですが、現状それしか方法はありません。 法律が進化するよう、選挙には積極的に参加しましょう。
相談に乗ってくれる弁護士事務所が現れたら、Web相談やメール相談で具体的に話を詰めていきます。フォルダの中に保存した証拠や経緯を事前に確認してくれる弁護士事務所が多いため、その部分を改めて説明することはほぼありません。見積もりはいくらか、分割払いはできるか等、わからないことはすべて質問しましょう。先述した通り、時間は有限です。当事者は自分です。遠慮している暇も余裕もありません。
最終的に受任してくれる弁護士事務所と契約を交わします。私が契約した弁護士事務所は電子契約を扱っているため、PDFに電子印を押す形でのペーパーレスな契約でした。なお、複数の弁護士事務所から受任すると言ってもらえた場合でも、予算等ご自身の総合的な判断で決めてください。こちらも就活同様、契約しないことになった場合でも後々お世話になる可能性があるため、断る際は丁寧にお礼を伝えておきましょう。
ここまでの流れを、誹謗中傷から1ヶ月以内に行ってください。発信者情報開示請求は、誹謗中傷の発生から3ヶ月が経過すると相手のログが消える可能性があります。そのため、逆算して誹謗中傷から弁護士委任までは1ヶ月以内に済ませるようにしてください。
発信者情報開示仮処分命令申立事件
まったく楽しい状況ではないですが、これくらいの気持ちでいないと不安で押しつぶされそうになり、これからの長い戦いを乗り越えられません。依頼をしたあとはほとんど弁護士事務所が行ってくれますが、質疑応答や結果を待つ時間や裁判期日の緊張等、メンタルはゴリゴリ削られます。そのため、できるだけ気持ちを上向かせるようにしてください。裁判を起こそうと、日常生活がストップするわけではありません。
着手金・成功報酬
契約を交わすと、まず着手金を支払います。着手金は、結果がどうなろうと、弁護士が事件に着手するにあたって支払う費用です。委任しているので、勘定科目でいえば「支払手数料」「支払報酬料」「業務委託費」が適当ですが、支払手数料は他にもたくさんあるため、私は着手金を「業務委託費」に、成功報酬を「支払報酬料」にしました。
余談はさておき、私も法テラスを利用しておけばと思ったのですが、実際、訴えを起こそうと思って初めてそういった制度を調べると思います。私は法テラスを利用すると間違いなくデッドラインを超えてしまうので、利用なしで依頼しました。しかし、分割払い可の弁護士事務所であったため、一気に預金額が減ると若干不安なこともあり、6ヶ月の分割払いで対応していただくこととなりました。もちろん委任した弁護士事務所によって金額は異なりますが、私の場合は下記の通りでした。
- 発信者情報開示仮処分申立事件:着手金22万円(税込)、成功報酬0円(税込)
- 発信者情報開示請求事件:着手金22万円(税込)、成功報酬0円(税込)
申立書類の作成
弁護士が着手したら、まずは裁判所宛てに申し立て(今回はX(Twitter)社のため、東京に日本支社があることから東京地方裁判所です)を行います。そのために、書類を準備しなければなりません。弁護士事務所から事実関係含めたくさんの質問がなされますので、偽りなくご回答ください。また、最後に陳述書を書きます。何故今回このような申し立てを行ったかを、文章にします。前工程でフォルダ内に経緯等をまとめていたと思いますので、それをもとに作成すればそこまで時間はかかりません。もちろん弁護士事務所が内容を確認してくれるため、その際も質問があれば偽りなくご回答ください。
当然のことながら、申立書や陳述書の内容は、裁判記録として保管されます。公開訴訟であれば、全世界から閲覧可能となります。判例として今後の参考にされる可能性もありますし、それが同じ思いを抱えている人を救う可能性もありますので、思いの丈を書きましょう。これは他の誰でもない、自分自身の裁判です。主役は自分自身です。
事件番号の通知と裁判官面接
申し立てを行うと、事件番号が発行されます。仮処分の事件番号は「令和○年(ヨ)第△号」という番号になります。弁護士と裁判官が面接を行い、ここで誹謗中傷の内容が仮処分をするに相当すると認められれば、相手方を呼び出す「双方審尋期日」が設けられます。逆にこの時点で仮処分に相当しないと判断されれば、申し立ての取り下げが命じられ、すべてが終了します。つまり、証拠保存や申立書類がすべてです。
双方審尋期日
仮処分が認められました。結果報告のメールが届いたとき、本当に始まりの一歩であったため、安堵やその他諸々の感情によってしばらく涙が止まりませんでした。X(Twitter)社はIPアドレス・電話番号・メールアドレスを所有しているとのことでした。
基本的には、この後書類の修正等を行い、その後で裁判所が仮処分命令を発令します。しかし、そう上手くはことが運ばないのが人生です。
法改正及びイーロン・マスク氏のCEO就任による影響
はい。2022年10月1日(土)に法改正が行われたことは記憶に新しいかと思います。発信者情報開示請求の工程が簡略化され、開示請求を行うハードルが下がるという内容です。しかし、私の事件の申立日は法改正前でした。そして、仮処分命令が発令されたのは法改正後でした。そのため、法改正前の制度で申し立てを行い、X(Twitter)社は法改正後の制度で情報開示を行うというねじれが生じました。結果的に、もう一度「双方審尋期日」が行われることとなりました。
結果が変わることはなく、仮処分発令が行われる運びとなりました。書類の修正等を行い、裁判所が仮処分命令を発令することとなりました。
しかし、ここでまた波乱が起きます。そう、イーロン・マスク氏のCEO就任です。マスク氏就任後の人事によって、X(Twitter)社がカオスな状態になったことは皆さんも記憶に新しいかと思います。その影響で、発信者情報開示請求の進捗にも遅れが生じました。私は大変な時期に裁判を起こしてしまったと思いました。
私は先ほど、誹謗中傷から弁護士委任までを1ヶ月以内にするようお伝えしました。また、発信者情報開示請求はデッドラインが3ヶ月以内であることをお伝えしました。私の場合、弁護士への委任まで1ヶ月、仮処分によってIPアドレスが開示されるまで2ヶ月を要しました。更に法改正やCEO変更に伴う人事等のハプニングが影響し、IPアドレスが開示されたころには、投稿から3ヶ月というデッドラインを超えてしまっていました。私は内心思いました。「万策尽きた」と。
通常(法改正前)であれば、開示されたIPアドレスをもとにプロバイダを特定し、プロバイダ相手に「発信者情報開示請求書」を送付します。その回答によって、発信者情報開示請求を行います。しかし、事態はまた思わぬ方向に展開していくこととなりました。
発信者情報開示請求事件
事件番号の通知
先ほど、さり気なくX(Twitter)社はIPアドレスの他に電話番号とメールアドレスを所有しているとお伝えしました。そうです、電話番号とメールアドレスの開示が請求できます。実はIPアドレスが開示される前の段階で、弁護士事務所はすでに動いてくれており、電話番号とメールアドレス開示の申し立てを行ったと報告してくださいました。
発信者情報開示請求事件の事件番号は、「令和○年(発チ)第△号」となります。今回は法改正後で手続きを行うため、再びX(Twitter)社に裁判を起こすこととなりました。法改正後である現在は、仮処分やプロバイダを相手取る訴訟をすっ飛ばして、X(Twitter)社に直接発信者情報開示請求を行い、裁判官が開示に値すると認めて個人情報の開示を命令すれば、個人情報が開示される仕組みになっています。
双方審尋期日
無事、発信者情報の開示が認められました。そもそも誹謗中傷がなかったらと考えると虚無に陥りますが、本当に嬉しかったです。それでもまだ、すべての工程で見ると半分程度です。仮処分同様、事務手続きを経て裁判所が命令を発令します。
これで、誹謗中傷を行った相手の電話番号とメールアドレスが得られることとなりました。では、それらの情報を得られたらどうするか。それを次項でお伝えします。
弁護士会照会
弁護士会照会(弁護士法第23条の2による照会手続き)とは、電話番号を保有している人物の個人情報を、メールアドレスと紐づいている電話番号を弁護士会を通じて照会するという作業です。電話番号が得られたら、そこから番号を保有している個人情報を照会します。弁護士会照会によって回答を求められた側には、回答する義務があります。そのため、必ず何かしらの回答が来ます。しかし、この工程で得られる回答(個人情報)を依頼人が知ることはできません。およそ1ヶ月程の期間を要します。
着手金・成功報酬
当然ながら、弁護士会照会が無料なわけはありません。別途費用が発生します。
- 弁護士法第23条の2による照会手続き:着手金55,000円(税込)
- 示談折衝:着手金0円(税込)、成功報酬は相手から回収した金額の17.6%(税込)
次項からは、弁護士事務所に確認した一般的な流れや費用をご紹介します。
示談折衝
弁護士会照会を経て得られた個人情報から、示談折衝に移ります。示談金は個人の特定にかかった費用や慰謝料等を含め、法外な金額でない限り自由に設定が可能です。
- 個人特定にかかった費用:440,000円+55,000円=495,000円
- 慰謝料:任意の金額
- 成功報酬:上記2点の合計金額の17.6%(税込)
以上のことから、計算式は下記の通りです。まず赤字回避の最低ラインは、
求める利益÷(1-成功報酬率)+(特定費用÷(1-成功報酬率))
=0÷(1-0.176)+(495,000÷(1-0.176))
=600,728円 ※相手に請求する金額慰謝料:600,728円-495,000円=105,728円
求める利益を30万円とすると、
求める利益÷(1-成功報酬率)+(特定費用÷(1-成功報酬率))
=300,000÷(1-0.176)+(495,000÷(1-0.176))
=964,806円 ※相手に請求する金額慰謝料:964,806円-495,000円=469,806円
以上のようになります。ここは、委任した弁護士事務所の成功報酬率や、最終的に得たい利益等で変わってきます。もちろん、相手が示談に応じるかどうかにもよります。
示談書には、金額の他にも条件を追加することが可能です。双方合意の上で示談が成立すればここでおしまいですが、示談が決裂すると、損害賠償請求訴訟に移行します。
損害賠償請求訴訟
発信者情報開示請求事件によって相手方の投稿が個人情報の開示に相当すると認められた場合でも、損害賠償請求訴訟で「違法性がある」と判断されるとは限りません。ちなみに、損害賠償請求訴訟は公開となるため、裁判記録は全世界から閲覧が可能となり、仮処分の際に陳述書に書いたTREASUREの差別発言及びYGエンターテインメントの対応、そしてトゥメの誹謗中傷等が誰でも見られる状態となります。
当然のことながら、損害賠償請求訴訟にも費用が掛かります。発信者情報開示請求と同じく着手金22万円(税込)、示談折衝と同じく成功報酬17.6%(税込)で計算してみましょう。
- 損害賠償請求訴訟事件:着手金22万円(税込)
- 個人特定にかかった費用:440,000円+55,000円=495,000円
- 慰謝料:任意の金額
- 成功報酬:和解または判決で回収できた金額の17.6%(税込)
以上のことから、計算式は下記の通りです。まず赤字回避の最低ラインは、
求める利益÷(1-成功報酬率)+(特定費用+損害賠償着手金÷(1-成功報酬率))
=0÷(1-0.176)+(495,000+220,000÷(1-0.176))
=867,718円 ※相手に請求する金額
求める利益を30万円とすると、
求める利益÷(1-成功報酬率)+(特定費用÷(1-成功報酬率))
=300,000÷(1-0.176)+(495,000+220,000÷(1-0.176))
=1,231,796円 ※相手に請求する金額
以上のようになりますが、基本的に請求額は弁護士が算定します。再び書類を準備し、相手方(以下、被告)が居住する都道府県の裁判所に申し立てを行います。第1回期日が設けられ、被告はこちらの主張ひとつひとつに対する答えを記載した答弁書を用意します。その後は裁判官の裁量によって裁判が進行し、最終的に和解もしくは判決となります。
ちなみに、被告側が弁護士を立てた場合、被告側も同様に着手金と成功報酬を支払うこととなります。被告側の成功報酬は、払わずに済んだ金額が利益となるため「(訴訟で請求された金額-和解や判決で出た金額)×20%前後」となります。例えば被告側弁護士の着手金が20万円で成功報酬が20%となっており、私が訴訟で200万円を要求して判決が50万円となった場合、被告の負担は下記の通りとなります。
被告の負担=着手金+成功報酬+判決金額
=200,000+((2,000,000-500,000)×0.2)+500,000
=1,000,000円
よって、被告側にも決して安くはない負担が発生します。誹謗中傷をする方は、これくらいの金額を支払う可能性があることを頭に入れた方が良いです。
余談ですが、示談にしろ損害賠償請求にしろ、被告が支払う金額が決まった時点で、帳簿上には「未収入金」を立てます。その未収入金が無事0円になれば良いですが、決定した金額を支払わない被告も存在します。未収入金の回収が芳しくなければ、帳簿上で残額を「貸倒懸念債権」に変更します。その上で、更に費用を支払って被告から強制的に債権を回収する「動産執行」という制度も存在します。
下記の漫画に、発信者情報開示請求から動産執行までの一例が記載されています。
発信者情報開示請求を行った感想
疲れました。ほとんどのことは弁護士事務所が行ってくださってるとはいえ、こちらの心労も半端ではありません。棄却されてしまわないか、費用倒れに終わってしまわないか等、日々心配ごとは尽きません。誹謗中傷をされた側がここまでの労力を費やさないといけないことは本当に理不尽で、ここまで書いておきながら、正直おすすめはできません。しかし、裁判を起こすことで、自分の主張を公に伝えることができます。記録に残すことができます。誹謗中傷を浴びていると、自分が間違っている感覚に陥ることも多々あります。ですが、司法の決定によって間違っていなかったと思うこともできます。下記は、東京地方裁判所の裁判官がロースクールの教員になるドラマ『女神の教室~リーガル青春白書~』の一場面です。私はとても胸を打たれました。
最後になりましたが、裁判を起こすことを応援してくれた家族・友人・同僚、そして一緒に戦ってくださっている弁護士事務所の皆さまに感謝します。本当にありがとうございます。この記事が少しでもSNS上の誹謗中傷で苦しんでいる方の泣き寝入りを防ぎ、そもそも誹謗中傷が起こりにくい土壌を作る(=抑止力となる)ことに貢献できたら、それ以上にこの記事を「書いてよかった」と思えることはありません。
YGエンターテインメント及びタイアップ企業、そして傍観者へ
さて、今なお同性愛嫌悪的な差別発言を行い、それをなかったことにして活動しているTREASURE及びYGエンターテインメントの皆さま。あなたたちが即座に訂正をし、差別を許さないスタンスの声明を出していたら、それはトゥメによる誹謗中傷の抑止力となったはずです。しかし、あなたたちはそれをしませんでした。YG JAPANも「誠心誠意取り組んで参ります」と言っておきながら、何もしていません。結果、ひとりのトゥメは自殺を図るほど落ち込み、多数のトゥメから誹謗中傷を受け、心身症状及びフラッシュバックに今なお苛まれています。また、発信者情報開示請求を起こされたトゥメも、公式から声明があったら誹謗中傷を行わず、開示請求を起こされることもなかったかもしれません。もちろん個人の責任も大いにありますが、あなたたちが犯したことの責任は計り知れません。エンターテインメントを名乗らないでください。
また、YGエンターテインメント及びTREASUREとタイアップしている企業様各位にお訊きしますが、公式声明がない状態で、且つ裁判沙汰になっている企業・グループとタイアップすることについてどうお考えでしょうか? 貴社のイメージを損なってしまうおそれはありませんか? これまで情報が解禁されるたびに逐一確認を取っておりましたが、差別に反対する旨を早急に回答くださった企業様とコメントする立場にないと言葉を濁した企業様とに分かれております。私は、全企業様の回答を記録して残しております。もちろん、それらを公開するようなことは致しません。ですが、是非ご検討の上、ご賢明な判断をしてくださいますようお願い申し上げます。
更に、私はこの出来事について1年以上ずっと水面下で戦い続けていますが、私以外の人はどれほどこの出来事について真摯に向き合ってくださっているでしょうか。YGに問い合わせを送ってくださいましたか? YGが発信するコンテンツの再生・購買をボイコットしてくださいましたか? あらゆるタイアップ企業に対して立場の表明を要求してくださいましたか? 私がこの件について触れるたびに「また/まだ言ってるよ」と思ってはいませんか? 同じ芸能界における映画『バービー』やジャニーズ事務所の性加害問題、Lizzoに対して行われた告発は、解決には至っていないものの、公式は(良い悪いはさておき)何かしらの声明を出しています。私はこの件が同じくらい問題になっていないことに、ずっと腹を立てています。私がいくら何をしても、絶対的な母数が足りない限り、大きなムーブメントにはならない。それを痛感するたびに、どんどん孤独な気持ちになっていきます。ただ傍観されることが、一番私を追い詰めます。
最後に、1年以上ずっと言い続けていることですが、改めて言います。
YGエンターテインメント及びTREASUREに、差別発言についての謝罪文(ご不快構文ではないもの)及び、公式としての立場表明の発表を要求します。
裁判結果
こちらの記事をご参照ください。(※2023/12/3追記)
2023/08/10
ゆずひめ